台湾 専利法改正草案が公表される(複審・争議審議制度創設、再審査廃止など)

Vol.81(2021年1月4日)

台湾特許庁は2020年12月30日、専利法の改正草案を公表した1。今回の改正草案では拒絶査定及び無効審判等審決に対する行政救済制度において大きな変更が加えられている。主な内容は複審・争議審議制度創設、再審査の廃止、無効審判の取消訴訟における当事者構造の採用、冒認出願を無効理由から除外(民事訴訟で解決)及び意匠の新規性喪失例外の期間を6ヶ月から1年へなどである。以下に改正内容の概要を紹介する。(なお、本改正案はあくまで草案であり、今後は公聴会の開催、司法院や経済部との意見交換などが行われるため、草案の内容は変更される可能性がある。)

台湾特許庁は6月22日に改正案の第2版を公表しており、以下に第2版の内容を追記した。

複審・争議審議審議会創設

現在初審拒絶査定後の再審査及び無効審判の審理は、台湾特許庁の専利三組という組織が行っており、いずれも書面審査が原則とされている(面談の申請は可能)。しかし現行の専利三組による審査・審理では手続き的な保障が十分ではないという声が出ていたことから、今回新たに「複審・争議審議会」を設け、この複審・争議審議会が審査拒絶査定後の複審及び無効審判の審議を行うこととされている(66条の1~66条の7)。なお複審・争議審議会は3人又は5人の合議体が審議を行う。

複審制度創設、再審査・訴願の廃止

現在の台湾専利法下における出願の審査は、台湾特許庁での初審査、台湾特許庁での再審査、経済部での訴願、知的財産及び商事裁判所2での一審、最高行政裁判所での二審という流れとなっている3

今回の改正草案では日本の審判部、米国のPTAB、韓国のIPTABや中国の復審委員会の組織構造を参考とし、現行の再審査制度を廃止し新たに複審・争議審議制度が創設されている。また複審・争議審議会での審議(決定)に対しては訴願を経ることなく、知的財産及び商事裁判所へ取消訴訟を提起することができる。そして現在二審は最高行政裁判所の管轄となっているが、改正草案では最高行政裁判所に代わり最高裁判所が審理を行うこととされている。

よって改正案における流れは台湾特許庁での初審査、複審・争議審議会での複審、知的財産及び商事裁判所での一審、最高裁判所での二審となる。

図1 現行及び改正草案における審査の流れ

複審での審議においては日本の審判で採用されている事項が多く取り込まれている。例えば前置審査、申請又は職権による口頭審議(原則は書面審議)などである(66条の8~83条)。明細書等の補正に関しては、複審請求と同時か又は複審審議時の拒絶理由通知受領後に行う場合に限られている。

図2 改正草案における審査・複審の流れ(詳細)

無効審判の手続き規定に関する改正

台湾特許庁公布資料の今回の改正大項目には挙げられていないが、無効審判の手続き規定に関する規定も大きく変更されている。以下に主なものを挙げる。

審判請求人の証拠・理由の補充提出期限の緩和

現行では審判請求人による理由・証拠の補充提出は、権利者が訂正の請求をしない限り、審判請求後3ヶ月以内に限られている。今回の改正草案ではこの3ヶ月以内という条文が削除され、代わりに「審判請求人による理由・証拠の補充は、審議終結前の適切な期間に行わなければならない。意図的に審議を遅延させる又は重大な過失により文書を提出せず、審議終結の妨げとなる場合、提出されなかったものとみなす」という条文が追加されている(73条、74条)。また台湾特許庁が必要と認めたときは、審判請求人及び権利者に対し答弁書や弁駁書等の提出を求めることができるとも規定されている(74条)。

審議方式を原則口頭審議へ

無効審判の審議方式が原則口頭審議とされ、書面審議とすることは例外とされている。

中間決定、審議終結通知

訂正の拒否について、審理の途中で審議官から中間決定を下すことが認められている。そしてこの中間決定が下された場合、その後審議決定まではさらなる訂正や新たな理由・証拠の提出は認められない。また審議終結通知の制度が導入されており、審議官が審議の決定を下す程度まで達したと判断した場合は審議終結の通知が出され、この審議終結通知から1ヶ月以内に決定が下される。

その他(職権証拠調べ、準備手続き、審議計画、審議官の心証公開)

職権証拠調べ、準備手続き、審議計画、審議官の心証公開(審議官は審議終結前に事実上、法律上及び証拠上の争点、訂正の許否について、心証を公開しなければならない)といった改正がされている。

図3 改正草案における無効審判審議の流れ

無効審判の取消訴訟における当事者構造の採用、訴願の廃止

現在の無効審判(延長登録無効審判含む)及び訂正は台湾特許庁での審査、経済部での訴願、知的財産及び商事裁判所での一審、最高行政裁判所での二審という流れとなっている。

今回の改正草案では拒絶査定後の複審同様、無効審判及び訂正の審査は複審・争議審議制度が行うこととなっている。また複審・争議審議会での審議(決定)に対しては訴願を経ることなく、知的財産及び商事裁判所へ取消訴訟を提起することができる。そして現在二審は最高行政裁判所の管轄となっているが、改正草案では最高行政裁判所に代わり最高裁判所が審理を行うこととされている。

つまり、改正案における流れは複審・争議審議会での複審、知的財産及び商事裁判所での一審、最高裁判所での二審となる。

図4 現行及び改正草案における無効審判の流れ

次に現在、無効審判の審決に対する取消訴訟では、審決(認容審決又は棄却審決)に不服のある者が原告となるが、被告は台湾特許庁となっており、もう一方の当事者(特許権者又は審判請求人)は参加人という形で取消訴訟に関わることになっている。

今回の改正草案では、私権の争議という性質を有する無効審判の審決取消訴訟の特徴を鑑み、無効審判の審決取消訴訟において当事者構造を採用し、特許権者又は審判請求人がそれぞれ原告及び被告となるよう改正されている。

冒認出願を無効理由から除外(民事訴訟で解決)

現在、無効理由には冒認出願に関する事由が規定されており、冒認出願がされた場合、真の権利者は無効審判を請求しその登録を無効とした上で、専利法第35条の規定に基づき自らが新たに出願することで、特許権を取得することができる(新出願の出願日は、冒認登録の出願日となる)。またこうした行政ルートに加え、民事ルートによる救済も規定されており、特許を受ける権利に関する民事訴訟を提起し判決を得た後で、名義変更手続きを行うことも認められている。

しかし行政ルートに関しては、台湾特許庁は真の権利帰属に関して調査することは困難であったことから、改正草案では無効理由から冒認出願に関する事由が削除されている。改正草案の規定によれば、冒認出願がされて登録となっていた場合は無効審判によりその登録を無効とすることはできなくなり、民事ルートによる解決を行うことしかできなくなっている。

第2版において、「特許権又は特許を受ける権利の帰属に関して訴訟提起、調停申請等がされた場合、当事者は当該特許権又は特許を受ける権利に係る各種手続き(出願の審査、無効審判審理、訂正など)の審査/審理の一時停止を請求することができる」という規定が追加されている(第10条)。

意匠の新規性喪失例外の期間を拡大

現在、意匠の新規性喪失の例外の期間は6ヶ月であるが、改正草案ではこれが1年に拡大されている。なお、特許及び実用新案における新規性喪失の例外の期間は2017年に1年へと拡大されている。

分割の時期的要件

現在は再審査制度が存在するため、分割を行うことができる期間は再審査の査定前か、特許査定後3ヶ月以内と規定されている。改正草案では再審査制度が廃止され複審制度が導入されていること受け、分割の時期的要件もこれに合わせて改正がされており、分割可能時期は初審査の査定前及び初審査での特許査定後3ヶ月以内へと制限されている。つまり、拒絶査定を受けた後は複審を請求したとしても、分割をすることができない。最初の拒絶査定後3ヶ月以内、拒絶査定不服審判請求と当時、拒絶査定不服審判での拒絶理由通知の応答期間内であれば出願の分割を行うことができる日本の要件とは大きく異なるため、注意が必要である。

第2版において、分割の時期的要件が大きく緩和されている。当初の改正案(第1版)では初審査の査定前及び初審査での特許査定後3ヶ月以内に限られていたが、第2版ではこれらに加えて拒絶査定後2か月以内、複審請求後から複審拒絶決定前、複審での特許決定後3か月以内の3つが追加されている。

つまり第2版における分割が可能な時期は、以下の5つとなっている。

(1)審査での査定前

(2)特許査定後3ヶ月以内

(3)拒絶査定後2か月以内

(4)複審請求後から複審拒絶決定前

(5)複審での特許決定後3か月以内

第2版の内容により、日本での規定にだいぶ近づいたと言えるが、以下に挙げるようにいくつか相違点があるので注意が必要である。

  • 日本では前置審査を経た特許査定後は分割ができないが、台湾は上記(2)の規定に基づき、分割が可能である。
  • 台湾では前置審査中はいつでも上記(4)の規定に基づき、分割が可能である。

[1] 台湾特許庁公布内容 https://www.tipo.gov.tw/tw/cp-86-884440-8199b-1.html

[2] 台湾では2021年7月から商事裁判所が設立されるとともに、現在の知的財産裁判所と合併し「知的財産及び商事裁判所」が発足する、ここでは知的財産裁判所を7月以降の表記「知的財産及び商事裁判所」と記載する。

[3] なお実用新案では再審査は規定されておらず、初審査での拒絶査定に対しては訴願を提起することができる。

 

キーワード:特許 法改正 台湾 訂正 無効審判

 

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